ライブ配信イベント時の広告配信の仕組み
決勝戦、大きな賞の授賞式、大統領候補の討論会*などのライブ配信イベントは、ストリーミングTVにおいて、各コマーシャル枠で何百万人もの視聴者に同時にパーソナライズされた広告を配信するため、複雑でリスクの高い広告プロセスを生み出します。
これはテレビ番組の中でも最も価値の高いもののひとつであり、関連性の高いプログラマティック広告とライブTVのダイナミックな体験を組み合わせるという、魅力的な機会です。しかし、この新しい機会にはライブTV特有の課題もあります。
ストリーミングTVにおけるライブ配信イベントの広告が、実際にどのように機能するのか、順を追って説明しましょう。
まず、プログラマティック広告では、リアルタイムで広告が選択されるという事を理解しておくことが重要です。つまり、システムが各視聴者に最適な広告を、最適な瞬間に選択するということです。これにより、ライブストリーミングとオンデマンド視聴では、今までになかった複雑な状況が生じます。
大きな違いは、同時性です。オンデマンドコンテンツでは、視聴者は異なる時間に視聴するため、広告のデマンドは分散します。一方、ライブ配信イベントでは、コマーシャルは必須であり、視聴者全員がまったく同じ時間に視聴しています。コマーシャルが流れ始めると、数百、数千、何百万人の視聴者を対象にした広告リクエストが同時に発生します。
ライブ配信の中には、選手がフィールドで負傷したり、タイムアウトが要求されたり、予定外のコマーシャルが発生することもあります。いずれの場合も、入札リクエストが急増し、プログラマティックのシステムに一気に殺到します。
ストリーミングTVにおけるライブ配信イベント広告の仕組み
ライブ配信イベントの広告が配信されるプロセスを段階を追って見てみましょう。
- 例えば、大きなスポーツ大会の様子をフィールドで撮影スタッフが収録しているとします。この音声および動画コンテンツは、放送コントロールセンターに送信され、そこでリアルタイムでフィードを取り込み、デジタル形式にエンコードした後、視聴者に送信します。プロデューサーがコマーシャルを入れることを決定した場合、SCTE 35マーカーをフィードに挿入することで、広告配信プロセスが開始されます。
- 配信企業は、SSAI(server-side ad insertion)と呼ばれる技術を用いて、ライブ配信に溶け込むように広告を挿入します。コマーシャルが要求されると、SSAIが、配信企業のアドサーバーから広告をリクエストします。
- その後、アドサーバーは、接続するSSPと通信します。SSPは、広告の合計配信時間や最短・最長広告の尺など詳細情報を含む、希望する広告ポッドの構成を把握し、DSPにリクエストを送信します。このような詳細は、広告ポッド・ジオメトリと呼ばれます。
- 次に、DSPはリアルタイムで多数の入札リクエストのシグナルを検証し、バイヤーのパラメータを満たすインプレッションの機会に対して、入札を返します。
- SSPが入札を受け取った後、無効または重複している可能性のある入札を除外し、最終的な広告の構成を検討するために、入札と対応するクリエイティブをアドサーバーに返します。
- アドサーバーは、広告の長さや競合他社との配信を防ぎ、配信企業のガイドラインに準拠した広告ポッドを構成し、視聴体験と収益を最適化します。
- 構成した広告ポッドはSSAIに返され、ライブ配信に組み込まれ、視聴者が支障なく再生できるようにします。
リクエストから広告配信までの全体のプロセスは、同時接続数が急増した場合でも、ミリ秒単位で完了するため、何百万人もの視聴者が中断されることなく、関連性の高い広告を見ることができます。
ライブ配信イベント時の広告の課題
ライブ配信イベントの広告は、他のストリーミング配信と同様のプロセスですが、ライブ配信イベントの複雑さと規模により、配信企業、マーケター、アドテクプラットフォームが、シームレスな体験を確保するために対処すべき課題をいくつか提示しました。
ライブ配信イベントでは、配信企業は視聴体験を守るために、ストリーミングを可能な限りリアルタイムに近づけたいと考えています。ストリーミングに遅延が生じると、視聴者は、画面上に再生される前に重要な出来事を耳にしてしまう可能性があります。この低遅延へのこだわりは、広告リクエストがほぼ瞬時に処理される必要があることを意味し、エラーが起こる余地はほとんどありません。
リスクが非常に高いのです。広告配信プロセスのわずかな遅延やエラーでも、ストリーミング全体に支障をきたす可能性があります。レスポンスが遅い、タイムアウト、クリエイティブファイルが存在しない場合、ストリーミングのクラッシュやスレート(広告がない場合に表示される静止画)を表示する原因となります。
最悪の場合、アドテクスタックの遅延がSSAIシステム全体の障害を引き起こし、配信が完全に停止する可能性もあります。
もう一つの課題は、クリエイティブが変化に追いついていないことです。広告は、スマートフォン、タブレット、スマートTVなど、さまざまなデバイスや異なるインターネット接続速度に合わせて、適応する必要があります。広告が、どこでどのように配信されるかに関わらず、すべての広告の見た目を保証することは、より複雑さを増します。
最後に、シグナリングの問題です。これは手動プロセスであり、メディア企業が、ライブ配信イベントの機会について、また、それがいつ発生するのかをバイヤーに、明確に通知することが難しい場合があります。
つまり、バイヤーはライブ配信イベントのスケジュールを事前に把握できない場合があり、価値の高いイベント中に、キャンペーンを配信する機会を逃す可能性があります。透明性の欠如は、バイヤーがビッドストリーム内でライブ配信イベントを識別するのをより困難にします。
ライブ配信広告のソリューション
アドテク業界は、ライブ配信イベント広告の課題に対処するため、新しいソリューションを開発しており、効率性と信頼性の向上に重点を置いています。これには、以下の内容が含まれます。
- クリエイティブ事前取り込み:コマーシャル中に瞬時に配信可能にするため、事前に広告を準備します。
- メディア企業とセラー間のシグナリングと連携を強化:ビッドストリームにライブ配信イベントのシグナルというコンテンツ属性を含めることや、イベントスケジュールや視聴者情報を事前に共有することで、バイヤーがより効果的にキャンペーンを計画できるようにするなど、メディアバイヤーとセラー間のシグナリングと連携の強化をします。
- 入札リクエストを時間差で事前に取得:リクエストをより均等に分散し、急激なリクエスト増加を緩和することで、サーバーの過負荷を防止します。
- ほぼリアルタイムの視聴者データ:配信企業やアドテクプロバイダーは、ライブイベント中にコンピューティングリソースを柔軟に拡張でき、重要な瞬間にスムーズなストリーミングと広告機会最大化を実現します。
これらの技術開発は、まだ開発途中ですが、ストリーミングTVにおけるライブ配信イベントに大きな変化をもたらすでしょう。
私たちの業界は、コミュニケーション、準備、柔軟なリソース管理の改善に向けて引き続き連携し、ライブ配信イベントにおけるプログラマティック広告配信の信頼性、効率性、収益性を高めるための道筋を作っています。
ストリーミングTVのビジネス機会について
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